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初任技術者の成長像を描く~TechDeskでの取り組み~


目次[非表示]

  1. 1.はじめに
  2. 2.達成像と目標設定
  3. 3.採用したカリキュラムモデル
  4. 4.ワークショップでトピック学習をデザイン
  5. 5.目標設定との関係
  6. 6.進捗と活動報告
  7. 7.終わりに

はじめに

新卒ほか若手社員には、新任として実務に就いた最初の1-2年の頑張りが、その後の成長にとって大事であると言われており、筆者も同じ思いです。本稿では、その大事な期間の中で、初任者各自が具体的な達成イメージを持って業務スキルを習得し、現場の一員として活躍してもらうために新たに取り入れた「トピック学習」に基づくカリキュラムモデルと成長像について紹介します。

達成像と目標設定

フランスの作家ジュール・ヴェルヌは「人が想像できることは、必ず人が実現できる。(Anything one man can imagine; other men can make real.)」との格言を残しています。ジュール・ヴェルヌは、壮大なプロジェクトを指して言っているのでしょうが、そこまでのものでなくても達成のためには具体的にイメージすることが必要です。具体的にイメージするとは、あるべき姿(To-Be像)を思い描き、それには何が出来るようになれば良いのか、そのために現状の姿(As-Is像)を分析し、そこに積み増す差分(Gap)を明確にして活動計画(アクションプラン)に落とし込むという一連のことを指しています。そして活動計画は、気合いや意気込みだけでなく、必ずSMARTの因子を含めてステートメント化することが必要です。

SMARTの因子:
Specific(具体的で) - Measurable(測定可能で) - Achievable(達成可能で) - Relevant(関連性があって) - Time bound(期限までに)

採用したカリキュラムモデル

通常、学校教育のカリキュラムは教科ごとに編成され、体系的・網羅的に学習することを目的にしています。基本、企業教育(集合研修)もこれに準じています。このカリキュラムモデルは、講師の専門性を生かして一律の教育を行うためには、効率が良いものです。
それとは逆に、「何が出来るようになるか」を中心に考えてカリキュラムを組むアプローチがあります。たとえば、英国の初等教育で採用されていて特色あるカリキュラムモデルである「トピック学習」では、1つのトピック(例: 創作課題)を中心に据え、その周囲に複数の教科カリキュラムの統合からなるサブテーマを置き、サブテーマ内に個々の取り組みを整理して描き出すようデザインしています。
このカリキュラムモデルによって、子供が主体的にトピックに取り組める総合的な活動計画を組むことが出来るとしています。わが国の文部科学省の学習指導要領では 「総合的な学習(探求)の時間」が、これに相当する取り組みであると見られます。
組織としては、初任者に実務を担当してもらえるようになることが重要です。集合研修の科目別カリキュラムで習得した知識の「縦糸」に、現場のOJTでの経験の「横糸」を通して布を織ることを考えるとき、現場ではこのトピック学習のカリキュラムモデルが有効であると考えました。段取り良く準備したつもりでも、布を織り始めてから足らない縦糸が見つかることもあるでしょう。よって、過剰で無く必要十分な知識群が何であるかを点検するにも役立つと見られます。
カリキュラムのモデル名の既知・不知は別にして、こういう考え方はどこの現場でもあるものでしょう。しかし、モデルとアプローチを明らかにして取り組んでもらうことは、受講者と指導者の双方での理解と納得のためにも有意義なことです。

ワークショップでトピック学習をデザイン

筆者の所属するネットワンパートナーズ株式会社のセールスエンジニアリング部 第4チームは、お客様であるパートナー様からの技術的問い合わせに対応する組織であり、通称、TechDeskと呼ばれています。
TechDeskの指導陣であるコアメンバーは、トピック学習のモデルによる取り組みを、2023年10月にTechDeskに配属された2023年度の新卒メンバー(3名)の育成向けに取り入れました。中心のトピックには、この組織の一員として「1年後になりたい技術者像」を据えています。つまり、翌年2024年10月に2024年度の新卒メンバーを迎え入れるときは、「自分達はこういう先輩になっていよう!」というのを具体化したものです。スキル面でいえば、ビジネススキルとテクニカルスキルのバランスの良い保有です。
自分達で取り組むものは、自分達で企画・立案するのが良く、実行実現度も高くなります。よって、 2023年度の新卒メンバーに数度のワークショップを行ってもらい、周囲のサブテーマとサブテーマ内の個々の取り組みをデザインしてもらいました。そのアウトプットは図1のとおりです。
なお、トピック学習のモデルを図示したものを「トピック・ウェブ」と呼んでいます。


TechDeskで1年後になりたい技術者像のトピック・ウェブ

図1 TechDeskで1年後になりたい技術者像のトピック・ウェブ


ちなみに、本カリキュラムに取り組んでもらっている2023年度の新卒メンバーとは、次のBlog記事に登場してもらった3名です。

  技術問い合わせ回答技術者集団 ~TechDesk若手ホープのご紹介~ TechDeskは、お客様からの技術的な問い合わせに対応する専任の技術者集団です。問い合わせは、取扱製品の機種、分野、内容、そして難易度もさまざまで、年間 約4,000件にも及びます。 きょうは、日々、問い合わせの回答に奮闘している若手の3名に集まってもらいました。 ネットワンパートナーズ株式会社ブログサイト




目標設定との関係

ネットワンググループでは人事制度としての目標管理が行われており、目標のカテゴリとして成果目標と行動目標を掲げることになっています。図1のトピック・ウェブのサブテーマ内の取り組みを見ると、両方の目標のカテゴリが含まれています。これらの取り組みを個人の個別具体的な活動に落とし込むことで目標化することが可能です。また前述のとおり、活動計画はSMARTの因子を含むこととしているので、目標設定の曖昧さを回避し、達成度合いを客観的に確認出来るものになっています。ただし、目標課題として取り上げるものは、トピック・ウェブで挙げられているものだけに留まりません。

進捗と活動報告

2023年度の新卒メンバーには、四半期ごとに活動報告をしてもらい、日々の業務状況のほか、トピック・ウェブで掲げたサブテーマの進捗も説明してもらいました。サブテーマ内の活動は、定量的に数値を挙げられないものは定性的なものになりますが、それでも個別具体的に目標を設定するので「果たして、それで出来ているといえるか」と問われれば、主観・客観でそうは評価が違わないものです。また活動報告の際に、マネージャーほかコアメンバーからも、あるべき姿の全体感を持って(重箱の隅を突くのでなく)指摘やコメントが出来るので、とても良いレビューとフィードバックの場になっていました。

終わりに

この1年間の取り組み結果から、トピック学習のモデルによる現場指導、取り組みが有効であることが確認出来ました。特に初任者にとって、受け入れてもらい易く、取り扱い易いモデルであることを実感しました。本稿を書いている2024年10月は、2024年度の新卒メンバーを迎えた時期でもあり、この取り組みの2年目 – 2周目として更にPDCAを回し、技術者育成のモデルとして確立していきたいと考えています。
筆者が学んだ文献では、トピック・ウェブのトピックとして「ドラマ創作 コロンブスの航海」が据えられていました。1492年にアメリカ大陸を発見した、あのコロンブスです。文献掲載向けに特別に誂えた面はあるのでしょうが、英国では初等教育から高尚なカリキュラムモデルに基づいて学習に取り組ませているものだなと感心しました。
余談ですが、大谷翔平が公開したことで一躍有名になったマンダラチャート(マンダラート)も、目標を中心にして周囲に目標の達成要素を置くという点では、トピック学習(トピック・ウェブ)と 類似のフレームワークです。ほかにも適用出来るフレームワークは数多くありましょうが、筆者は「論(RON)より走(RUN)」派であり、実践しながらフレームワークのモデルとその活用の最適化をしていきたいと考えています。

アイ・キャッチの写真:
FY23新卒メンバーによるワークショップでデザインされた「TechDeskでなりたい像」のトピック・ウエブ(原図)



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内田 邦夫(うちだ くにお)

内田 邦夫(うちだ くにお)

前職(省庁)での研究観測とデータ分析、大型計算機センター運営、学術系ネットワーク黎明期の構築・運用に続き、1997年にネットワンに入社以降は、応用技術、品質管理、サービスアカウントマネージャー、人事部(労務、教育・研修、障害者マネジメント)などを経て、2022年からネットワンパートナーズ セールスエンジニアリング部に所属しており、2023年からはTechDesk運用リードを担当しています。 もともとはインフラストラクチャー系のNW技術が領域であり、CCNA、CCNP、CCDA、CCDP及びCCIE(R/S)を保有し、過去にCCNAのテキスト出版(3冊)、そして情報処理推進機構(IPA)で情報処理試験委員の経験(12年間)があります。 また、パートナー様にNOP TECH INFOのTechDesk FAQ記事(#TechDesk)をもっとご活用いただけるように、記事作成と技術校閲も担当しています。
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