はじめに
ネットワンパートナーズ株式会社(以下、当社)は、パートナー企業様に商品をご購入いただくB to Bのビジネス形態を主体にしています。主力商材である魅力的で競争力のある海外製品は、設計構築を担当するパートナー企業のSE様に高度な技術レベルを要求し、結果、技術QA対応を担当するセールスエンジニアリング部 第4チーム(通称、TechDesk)にたくさんのご質問(チケット)が寄せられています。チケットについては個別に回答するだけでなく、パートナー企業様と共有する価値のあるものは技術解説文書にまとめて「FAQ記事」として公開することも、当チームの主要な活動です。
その一方で、パートナー企業のSE様とのコミュニケーションの中で、「ほかのパートナー様からはどういう質問が来ているのですか。」と聞かれることがあります。わたしたちの周囲では「みんなはどうしているのか」がとても気になる傾向がありますが、海外ベンダーのフォーラムや技術者コミュニティで、”What is the best practice ?” は多く問われていても ”What are other customers doing ?” は少ないように見受けられます。
もちろん、どのパートナー様がどういう質問をされているのかをそのままお伝えすることはできませんが、もしそれに応えられる手段があれば当社の技術QAサービスにおける差別化要素の一つになります。また別途公開しているFAQ記事(技術解説文書)は、チケット数の削減を目的にしていますが効果がいま一つであるところ、チケット数の削減と内容の絞り込みも狙える施策を検討したいところです。本稿は、それらを狙って試行的に開始した「チケットストリーム」の取り組みについて紹介するものです。
なお、FAQ記事については、こちらに寄稿していますので、併せてお読みいただければ幸いです。
チケットストリームの構想
チケットストリームの構想は次のとおりです。筆者の「こういうものであったら、きっといいだろうな」という思いをまとめたものでもあります。
キャッチコピーは、チケットの「いま」を開示する。
- およそ解決済みである2か月前程度のチケットを対象
- 流し読みできるサマリ化
チケット1件を、質問(要旨1行)、回答(要約3行程度)のイメージ
検索キーワードを付加(質問・回答に載らなかった部分のフォローを含める)
サマリに推測を含めない - 無名化(お客様に係る固有情報の完全削除)
- 照会キーとして(実)チケット番号を付加
→質問者は、チケット番号を指定して問い合わせる
例: チケット番号 NNNNN の詳細を教えてください。 - 1か月分を表形式にして公開
- (オプションとして)掲載ポータルのNOP TECH INFOのアクセス数向上のキラーコンテンツ化
構想の一つの「1か月分を表形式にして公開」ですが、1か月分のチケットをHTMLのTABLEタグによる200~300行の表で表示しただけでは、とても閲覧に堪えられません。掲載ポータルサイトの仕様並びに公開情報をPDFにする都合もあって、思案の結果、ExcelシートをPDFにしたものとしています。これはサーチャブルPDF(テキストレイヤーを付加したPDF)にしているので、テキスト検索することも容易です。
機械処理 - 生成AIの活用 -
現在、TechDeskでは、2つのチケット管理システム(sv-techdeskとNOP TECH INFO)を運用しています。両者を合わせて月間300件超のチケットについて、パートナー企業のSE様とTechDeskメンバーの間で交わされるメッセージを抽出し(ログ等の添付ファイルは無視)、機械処理(生成AI;Microsoft 365 Copilot 注)によって質問(要旨)と回答(要約)及び検索キーワードを作成しています。これらの処理の概要をデータフローダイヤグラム(DFD; ヨードン・コード法による)で表現したものを図1及び図2に示します。
注 Microsoft の公式解説によると、Copilot(企業向け)は有償版・無償版ともにエンタープライズデータ保護(EDP)が適用されており、それに従って「テナント間で論理的にデータが隔離され」「データは送信時・保存時に暗号化され」「入力したプロンプトや生成された応答は AI モデルの学習に利用されない」とされています。

図1 sv-techdeskでのサマリ生成処理

図2 NOP TECH INFOでのサマリ生成処理
生成AIは、情報の要約処理に優れていますが、長文のメッセージにある技術的な内容を有意のままに要約するのは難しくもあります。今回は、生成AIの要約時の特性を生かして、プロンプトに表1に示した工夫を施すことで、質問と回答を短文ながらより有意義な形でサマリ化することを試みています。
表1 質問と回答のサマリ化の工夫
項目 | サマリ化の工夫 |
|---|---|
質問 | ・生成AIの出力をそのままに ・中心テーマの質問には★マーキング ・要旨として同種質問を防ぐためのラベルとして生成(質問タグ; 1行) →キーワードを含める(エラーコード/機能名) →もし文にするなら「○○が□□する事象について」と見出し化で |
回答 | ・生成AIの出力をそのままに ・要約として結論の方向性をまとめたものとして生成(3行まで) →設定ミス・仕様どおり・既知不具合・案件依存(詳細確認中)など →もし文にするな ら「仕様上、〇〇の場合は△△になる」のように |
また、sv-techdeskとNOP TECH INFOとでは抽出したメッセージの形式が異なるので、ともに同じサマリが得られるように前処理とプロンプトの調整をしています。
試行段階のいま
図1及び図2の示すように、1か月分のチケットのメッセージを生成AIに投入してサマリを一気に自動生成するところまで、完成度を高めたいところです。しかし実際に手掛けてみると幾つかの制約があって、現状は数件ずつ手作業で処理している試行段階に留まっています。制約は、およそ次のようなものです。
- チケット管理システム(2種)のAPIに不詳なところ、メッセージの抽出にシステム内のWeb操作が必要になる
- 1件のチケットのメッセージ量のばらつきが大きく、生成AIが一度にまとめて処理できるチケットの件数に幅がある(安定的にはsv-techdeskで3件、NOP TECH INFOで5件程度)
- 生成AIが受け付けるファイル数が限定的である(3件)
- 逐次、サマリ化の結果(出来不出来)を見て、プロンプトを改良し再処理する必要がある
これらの制約の解決は、更なる有償版生成AIプランを購入してトークン制限(コンテキストウィンドウ)及び利用回数上限を拡張することです。ただし、それに依らなくても(手作業の介在を含め)手順を工夫することで回避できそうであり、その延長でのツールによる自動化を検討していきたいと考えています。
本稿の執筆時点で、2026年の4~6月の3か月分、約1,000件のサマリを公開しています。これだけの数のチケットを筆者の期待どおりに問題なくサマリ化できるのは、生成AIならではのことです。現在公開中のチケットサマリの例(抜粋)を表2に示します(NOP TECH INFOのチケットから)。
表2 公開中のチケットサマリの例
チケット番号 | ベンダー区分 | 質問(要旨)★中心テーマ | 回答(要約) | 検索キーワード |
|---|---|---|---|---|
2750 | Palo Alto Networks | 1.★GlobalProtectクライアントが回線断復旧後に自動再接続しない事象について(背景:GlobalProtect/自動再接続/VPN/クライアントバージョン) 2.不具合として認識済みか、および改修予定有無について(背景:BUG/リリースノート/改修状況) | 1.公開リリースノート上では該当不具合や修正情報は確認できない。 2.メーカー確認には再現ログや証跡が必要で、現状情報では確認実施が困難。 3.回避策として改善が確認された版の利用を推奨。 | GlobalProtect 自動再接続 VPN 回線復旧 クライアント 不具合 リリースノート |
2751 | Cisco | 1.★Linux脆弱性CVE-2026-31431(Copy Fail)がCatalyst 1300に影響するかについて(背景:CVE-2026-31431/Copy Fail/脆弱性/Catalyst 1300) 2.他製品への影響確認方法について(背景:Security Advisory/PSIRT) | 1.Catalyst 1300シリーズは対象製品として公開されておらず該当しない。 2.脆弱性有無はSecurity Advisoryで確認する。 | CVE-2026-31431 Copy Fail Catalyst1300 脆弱性 PSIRT Security Advisory |
2752 | Cisco | 1.★SSHログイン時に認証を2回要求される事象について(背景:C1200/SSH認証/ユーザー認証/ログイン失敗) | 1.パスワード認証有効化設定を案内。 2.改善しない場合はログおよび技術情報の取得を依頼。 3.追加情報未提供のためクローズ。 | C1200 SSH 二重認証 password-auth ログイン |
2753 | Palo Alto Networks | 1.Prisma Access利用時に脆弱性の影響を受けるかについて(背景:CVE-2026-0300/認証ポータル) 2.★認証ポータル有効時でも応答ページ無効なら影響対象外かについて(背景:PAN-OS/Response Pages/User-ID Authentication Portal) | 1.Prisma AccessおよびPanoramaは脆弱性対象外。 2.認証ポータルと応答ページの双方が有効な場合のみ影響を受ける。 3.応答ページ無効の場合は対象外。 | CVE-2026-0300 認証ポータル Response Pages PAN-OS Panorama Prisma Access |
本稿のアイキャッチは、公開しているチケットサマリ(sv-techdeskのもの)のPDFの印刷イメージです。
なお、サマリの公開にあたっては、チケット情報の「無名化」を人間の目によってダブルチェック(生成AIと合わせてトリプルチェック)しています。この処理は、生成AIのプロンプトで厳格に削除を指示しているので、いまのところ抜け漏れは見受けられません。
おわりに
チケットストリームのキャッチフレーズである「チケットの『いま』を開示する」という試みは、かなり斬新な試みであると自負しています。チケットストリームの目的を平たく言えば、チケットの個々の詳細情報を捉えるのではなく、川の流れを様子見するように「知見の流れ」を俯瞰することです。河川を観察する場合に、水をサンプリングして電気伝導度、pH、陽・陰イオンなどの化学的分析をすることがときに必要ですが、平時には水量と流れ及び汚濁の程度を目視して上流が平穏なのか変動があったのかを見る程度で用が足ります。前者がFAQ記事であるならば、後者はチケットストリームに相当するでしょう。生成AIを活用した処理によって、いままで人間ではとてもやってられない地味で大量の処理が誰にも可能になったのは素晴らしいことです。
なお、チケットストリームは、次のパートナー企業様向け(会員制)ポータルサイトで公開しています。

図3 NOP TECH INFO(TOPページ)とチケットストリームのバナー
本稿をご覧の皆様も、是非、当社に案件をご用命いただき、ポータルサイトで公開している多種多様の情報を利用していただけることを願っています。最後までお読みいただき、ありがとうございました。






