育成奮闘記~若手エンジニアの成長を促すために~
目次[非表示]
- 1.最初に
- 2.TechDeskの組織紹介
- 3.育成奮闘記
- 4.解と解法の違いを教える
- 5.コミュニケーション不全とその壁を超える
- 6.生成AIに何を問うべきか
- 7.最後に
最初に
皆様には、いつもパートナーブログをお読みいただきありがとうございます。ネットワンパートナーズ株式会社 セールスエンジニアリング部のテクニカルサポートチーム ”TechDesk” の林です。本稿では、このチームを運営する中で、若手エンジニア教育における筆者の苦労話をお話ししたいと思います。
TechDeskの組織紹介
TechDeskに寄せられる技術的な質問は、パートナー様や案件ごとに、製品・技術分野、質問内容、要求されるスキルレベルなどに違いはありますが、パートナーのSE様が現場で抱えているリアルな問題ばかりです。この質問に答える・要求に応えるためのTechDeskは、大まかにいうと、テクニカルリードと呼ばれる、主に回答のレビューや技術指導を行う教官兼技術責任者(筆者もこちらの役割)と、回答の作成・対応を行うメンバー(新卒1-2年目と派遣社員)で組織が編制されています(図1)。
回答のレビューや技術指導には、都度、マンツーマンで行うものと、デイリーの定時でテクニカルリードに相談・質問を行う“テクニカルレビュー” という会議体があります。このテクニカルレビューを通して調査方針や回答内容の擦り合わせを行い、回答に一定の品質を担保することと、メンバーのスキル向上に努めています。
図1 TechDeskの組織構成(イメージ)
育成奮闘記
若手エンジニアの指導は、「相手の人数×担当質問数」の式で導きだされるフォローの回数があるので、投入リソースだけでも、奮闘している姿を想像していただけると思います。それに加えて、フォローのクローズ時に、「分かりました!」「ありがとうございます!」と若手エンジニアが元気よく答えてくれるものの、「果たしてどこまで理解できているのだろう?」とか、「前にも同じこと教えたのだけどな…」など、気分がスッキリしないことが多々あり、その気持ちが段々と積もっていきます。「仏の顔も三度まで」という諺がありますが、若手エンジニアの指導ゆえに、回数によって突き放すことはできず、「菩薩の心」で根気強く(分かってもらえるまで)指導を繰り返しています。しかし、時間と労力を掛けたつもりの指導が相手に十分に響いていないというのは悩ましく、自身の精神衛生上よろしくありません。
解と解法の違いを教える
テクニカルレビューを行うにあたって、筆者が常に意識しているのは、相談に来たメンバーへ「解」を渡すのではなく「解法」を獲得してもらうことです。
「解」を渡すというのは、指導するテクニカルリードとしても、指導を受けるメンバーとしても、とても手軽なことです。こちらで「解」を考えてそのまま渡す場合、メンバーの理解レベルに配慮する必要は無く、説明や議論も不要です。そもそも、メンバーがほしいのは「解」なので、その要求にダイレクトに応えています。しかし、それでは育成としては悪手です。最前線で活躍できる立派なエンジニアになるためには、「解法」のモデルをマスターし、それを適用・応用することで、記憶している答えだけに頼らない思考能力を身につける必要があります。そのためには指導の定石どおり、メンバーが自ら行った事前調査のプロセスを一つひとつ確認し、何を理解し、何を理解できていないのかを整理・分析してから、不足部分を補うことが重要です。加えて、メンバー個人に合わせたオーダーメイドの指導を組み立てる必要もあり、投入するリソースはどんどん膨らみます。それでも、長い目で見れば、成長への近道(最短コース)になるに違いありません。若手エンジニアが数多くの「解」から帰納法的に「解法」を見付けてくれれば結構なことですが、それができるようになるまでには、手取り足取りの指導が必要です。指導において、過度な期待は禁物です。
コミュニケーション不全とその壁を超える
以上の思いを持って、毎日テクニカルレビューを開催しているのですが、筆者の思いがメンバー伝わらないことは日常茶飯事です。伝わらないというよりも、「コミュニケーション不全」が起きているのではないかとさえ感じています。どうもそこには、テクニカルリードとメンバー双方が求める、「解」と「解法」の認識に違いがあるため、同じ場にいながらも目的の相違があるからではないかと考えています(図2)。
メンバーは自分なりに、技術調査をこなしただけ成長できると自覚しているようです(前述の帰納法的スキルの空想)。しかし、なかなかそう簡単にはいきません。これを野球に例えてみると、単にバットを毎日1万回振り回すだけでは、むしろ下手になる練習をしているようなものです(体力は付くかも知れませんが)。やはりバッティングコーチに従ってセオリーどおりの正しいフォームで「素振り」をしてこそ意味があります。
そのためには、テクニカルレビューや、ひいてはパートナー様からの技術的な質問対応を行う「目的」についてメンバーと合意を図り、メンバー自身が「話を聞く耳」を持つことが大切です。コミュニケーション不全は、感情的な対立を招き、階層間の壁(断絶)につながるので、その解消には常に配慮しています。
図2 テクニカルレビューにおけるテクニカルリードとメンバーの関係
生成AIに何を問うべきか
昨今話題の生成AIは、進化が著しく、 TechDeskでも技術調査に活用しています。業務の効率化において非常に強力なツールであると感じています。しかし、この活用でも「解」と「解法」を意識してほしいと考えています。これは、質問者のプロンプトエンジニアリングのスキルに関わる部分でもあります。生成AIに「解」を求める質問をすると、「解」を得るに留まります。生成AIは膨大なデータベースから、最適な回答を生成しますが、プロンプターの暗黙の期待に応えたり、レベル感に合わせた指導を行ってはくれません。生成AIから「解法」を得ようとするならば、そのように質問を組み立てる必要があります。若手エンジニアは生成AIなどの先進技術を抵抗無く積極的に利用しています。それは良いことですが、安易に「解」を入手する手段としての利用に偏ってしまうと、いつまでも思考深度が深まらず応用力のないエンジニアに留まってしまいます。たとえば、生成AIに「解法」を問い、4つの回答が得られた時に、「3つは知っているけど1つは知らなかった。この1つで「解」にアプローチしてみよう!」と考えられるようになってもらえればと願っています。
最後に
さて、ここまで整然と書き綴ってきましたが、筆者が約10年前の自身の新人時代を思い返すと、「先輩~分からないです~助けてください(泣)」と半べそかきながら「解」を求め、定時後のオフィス内で先輩方を探し回っていました。先輩方にしてみれば、帰り間際に足止めされるので、とても迷惑なことだったと思います。しかし、当時の対面主体のコミュニケーションでは、単なる質問の回答以上に多くのものを得ることができました。コロナ禍以降、勤務がリモート中心になった現状、こうしたコミュニケーションが困難になっています。こちらから、「いつでもチャットやWeb会議で相談してください。」と伝えるだけでは、メンバーはなかなか相談に来ません。オフィスで見掛けたときに声を掛けるのとは、同じ感覚にはならないものです。そういう状況下にあって、困った時にいつでも相談に応じてくれる先輩になるためには、技術スキルやコミュニケーション能力だけでなく、人間性の向上も筆者の永遠のテーマになるでしょう。
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