登壇メイキングエピソード ~生成AIとネットワークエンジニアの業務~
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はじめに
2024年6月12日に開催されたInterop Tokyo カンファレンス 2024で、「生成AIは、ネットワークエンジニアリングのタスクを担えるのか?~ネットワークエンジニアリングの未来を探る!~」というセッションのパネリストのオファーを頂き、討論に加わらせていただきました。
このBlogをお読みの方の中にも、当日、聞いていただいた方もいらっしゃるかも知れません。
このBlogでは、“メイキング オブ Interopパネルセッション” のような形で、いつもは舞台裏にいるエンジニアが栄えあるステージに登場するまでの準備、奮闘についてまとめてみました。
TechDeskの業務と生成AI
筆者は、弊社セールスエンジニアリング部のTechDeskというエンジニアリングチームに所属しています。年間 約4,000件に及ぶお客様からの多岐に渡る技術問い合わせに回答する、そして相互に顔が見えないながらお客様に直接対応する技術者集団です。
この業務の難しいところは、質と量の同時確立とレベル維持です。特定の質問に時間を掛けているわけにもいかず、質問の数を処理するために回答の品質が落ちてはならずというところです。あと、担当者による対応のばらつき(≒属人化)があっても良くないわけで、日々研さんを積んでいます。
そういう私たちの業務において、情報検索ツールは不可欠なものですが、可能ならば、最近話題の生成AIで回答を導いてくれないものか…と大変注目している次第です。
実際に、お客様の問い合わせについて、試行的に幾つか生成AIに問い掛けてみましたが、筆者が期待する回答の内容は得られませんでした。また、十分に満足する回答を得るためには、それなりの前提条件を与えることが必要でした。それが分かっていれば質問しなくて良いだろうとの類を含めてです。そういった背景もあって、「業務」として生成AIを使うところには至っておりませんでした。
まさかのInterop Tokyoカンファレンス2024への登壇オファー
これを遡ること約4か月前、ITmedia様に「SIerのネットワークエンジニアを成長させる「頼りになる技術者集団の正体とは」の題してTechDeskの活動について取材記事を掲載しました。
そこに目を留めていただき、「Interop Tokyo カンファレンス 2024」の事務局様から弊社にパネリストの登壇のオファーを頂きました。そこで誰を登壇させるかで議論がありまして、筆者に白羽の矢?が中りました。
自分にとってInteropのパネリストとして討論に参加させていただくのは、ロック奏者がコンサートのデビューステージに上がるようなもので、大きなワクワクがありました。反面、荷の重さを感じていました。ほかの著名なパネリストの方々との討論なのでなおさらです。ただ、この舞台は、業界の現場の仲間と知識と知恵を交換する絶好の場であるのは間違いありません。そこで、筆者からは、盛りもせず飾りもせず、多くの人々に技術の現場の一員からの率直なメッセージを送ろう!ということで腹を括りました。
メイキングオブ討論内容
今回の討論テーマは、「生成AIは、ネットワークエンジニアリングのタスクを担えるのか?」です。カンファレンスに対する、事務局様の企画とセッション来場者様の期待を考えると、弊社のディストリビュータとしての業容・業態、TechDesk業務のお客様からの技術問い合わせ対応を範囲にしたのでは狭過ぎます。そして当面は、生成AIが情報検索ツールの延長線であり、技術調査の効率化ツールでの利活用になろうことは誰しも想定の範囲なので、個別具体的な話をまとめてもあまり面白くありません。
そこで、ネットワークエンジニアリングの作業におけるAIの活用場面を思い切って抽象化して考えることにしました。実はここに至るまでに相当時間が掛かってしまったのですが、1枚の紙に、案件フェーズの上流から下流までの提案・設計・構築・運用を横軸に取り、人間の判断と行動様式の観察/調査・方向付け・決定・行動を縦軸に取って、この二次元の世界で生成AIとエンジニアの立ち位置がどうあるべきかを俯瞰してみました。そうすると、結局は、生成AIに任せられる領域は、案件フェーズに依らずおよそ「決定」の手前あたりまでであり、その先から「行動」はエンジニアの役割と責任であるとまとめることが出来ました。このことは、生成AIが従来からの思考の延長では思いもよらないような、より創造的で斬新なアイデアを短時間で提供してくれるパートナーであるということと矛盾しません。よって、この考えを当日の討論の軸に据えてお話することにしました。生成AIとはちょっと領域が異なるかも知れませんが、航空機が自動操縦で、自動車が自動運転でコントロールされていたとしても、パイロットやドライバーは倫理面を含めて責任は免れないことは、現在の一般通念でもあり、それとも合致します。
図 案件フェーズと判断・行動様式における立ち位置の整理
いざ初ステージへ
カンファレンスの成功には、パネリストの振る舞いと討論内容の両面があります。何よりも厄介なのは、初ステージならではの緊張の克服です。来場者様で満員の会場、期待に満ちた瞳、自分の出番が近づくにつれて嫌でも緊張が高まります。
そんな中で、自身の緊張を和らげ、来場者様との距離を近付けるためのアイスブレークとして、生成AIに絡めたジョークを言ってみました。これにちょっとウケていただけたことで、筆者は落ち着いて続く討論を準備どおりに進められたと思っています。
本番では、つい話が長くなりがち、投影資料を説明するだけになりがち、そして何かと言い訳しがちです。そこで、思い切って投影資料は1枚だけ、それも資料というよりは壁紙のような扱いにして、筆者がこの思考に至るまでの経緯をお伝えすることにしました。やはり、現場の一人のエンジニアからのメッセージは、そこに一番リアリティがあるだろうと考えた次第です。
最後に
生成AIに限りませんが、ICT領域の進化は驚くべき速さで進んでいます。近未来的に、パネルセッションの原稿も、そのBlogも、全て生成AIで賄えるようになるかも知れません。その頃には、お客様からの技術問い合わせも全て生成AIに問えば完璧な回答を返してくれるでしょうから、筆者はTechDeskを卒業して人間のエンジニアならではの別の創造的な仕事に従事していることでしょう。Society 5.0とは、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」の概念とされているので、やはり「人間中心」でなければならないのです。
写真 カンファレンスで自己紹介を行う筆者(写真編集あり)
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