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NetOne USAから見えるIoT(Internet of Things)市場の状況

(NOS-USA  村上 丈文 presents.)

米国シリコンバレーにオフィスを持つNetOne USAでは米国において様々な新技術やスタートアップの状況について調査をしています。

もちろん今すぐ必要とされる技術や製品についても見ているのですが、当然ながら将来的に伸びてくると思われる分野についても調査をしています。

いつもはネットワングループの社内向けにレポートを書いているのですが、今回はNOP エンジニア blogへ「NetOne USAから見えるIoT(Internet of Things)市場の状況」についてお話をさせていただきます。


目次[非表示]

  1. 1.コンシューマー市場
  2. 2.エンタープライズ市場
  3. 3.パブリック


IoT市場のサイズ

IoT市場のサイズについては、各調査機関やメーカーから予測の数字が出ていますが、IoT Analyticsというサイトで複数の予測をまとめて比較したエントリがあるのでこちらを参考に解説したいと思います。なお、IoTの市場サイズは様々な機関が予測しており、ForbesPostScapesというサイトでもそれぞれ各種機関の予測数値をまとめております。それぞれ計算の前提も異なれば、ターゲットとする領域も異なりますのでかなり幅があることをお断りしておきますが、CiscoはIoE(Internet of Everything)によってもたらされる経済効果が次の10年間で19兆ドルに達すると述べているほか、GEはIndustrial Internetが20年後には年間10から15兆ドルの経済効果を生み出すようになると述べています。


(図1:各種調査機関からのIoT/IoE関連売上予測を一枚にまとめたもの source: IoT Analytics)

IoT/IoE関連売上予測

一方、リサーチファームにおけるIoT関連市場の売上予測も出ていますが、これまた随分会社によって幅があります。最もよく取り上げられるのはIDCが去年出したIoT Solution市場の数字で、2013年に既に1.9兆ドル規模のものが2020年までに7.1兆ドル規模になるというものです。一方で、GartnerはIoT プロダクト、サービスベンダーの収益が300億ドル増加するという予測をしています。

いずれにしても、各社が数100億ドルから兆ドルレベルの伸びを予測していることから、非常に大きなポテンシャルを秘めた市場ということが出来るでしょう。


IoT市場の分類

IoT市場は大きくはコンシューマー、エンタープライズ、パブリックというように分類できます。ただし、業界カットで見ると医療分野や車など複数の領域のサービスを提供しているものもあり、相互に連携しようとしているものも少なくありません。また、コンシューマー市場からエンタープライズ市場へ、もしくはその逆の方向へ市場が拡大するというケースはこの市場においても当然あり得る動きです。そのため、あくまで現状のスナップショットとしてみていただければと思います。下記に代表的な業界や業態ごとのIoT市場を列挙します。


コンシューマー市場

Wearableの分野が急速に盛り上がっています。省電力かつ小型のCPUや多様なセンサーの登場により、位置や振動だけでなく、心拍数や衝撃度、照射量などが常時測定可能な方向に向かっています。用途もフィットネス器具から健康、美容をサポートする器具へと広がりを見せている上、フィットネスジムとのサービスも始まっています。Wearable自体、未だ比較的少数のユーザが趣味で使っていると言えますが、もう少し価格が下がってくるにしたがって、様々な分野との連携が増え、価値も向上してくると思われます。特に医療分野に関してはシリコンバレーの投資も活発であり、コンシューマー向けのアプリやシステム、デバイスが登場してきているため、Wearable市場の中でもユーザが価値を感じやすい分野となるため要注目と言えるでしょう。
実際、Wearableは今年ラスベガスで開催されたCES(Consumer Electronics Show)でも注目度の高いトピックでした。やはり腕に装着したり、ベルトに着けたりするためのフィットネス器具が多かったですが、IoT化した血圧計や文字通り着ることの出来るWearableデバイスが内蔵されたシャツなど多種多様な製品が展示されていました。

左:Withingsの血圧測定デバイス。右:FitBitのデバイスと連携するランニングマシーン

左はWithingsの血圧測定デバイス。右はFitBitのデバイスと連携するランニングマシーン。


技術もこなれてきたせいか、デザイン重視の傾向が強くなっており、ヨーロッパのメーカーが多く出てきていたり、ファッションブランドとの提携が見られたりとIoT関連でも最も華やかな分野といえるかもしれません。

左:オーストリアのRuntastic社のORBIT・真ん中:Tory BurchとFitBitの提携製品・右:MisfitとSwarovskiの提携製品

左はオーストリアのRuntastic社のORBIT。真ん中はTory BurchとFitBitの提携製品。右はMisfitとSwarovskiの提携製品。
なお、昨年まではGoogle Glassを代表とするメガネ型のデバイスが人気を博していましたが、アプリの少なさや単価の高さからか実際には市場を形成するほどには至っていません。これらのデバイスの適用は
医療機関や教育、工場などのエンタープライズ領域がメインとなっていくと思われます。
Home IoTも注目を浴びている分野のひとつです。今まではHomeIoTもサーモスタットやエアコン、ドアロックやカメラなどのセキュリティ、その他家電のコントロールがそれぞれ別々に提供されていました。また、ゲートウェイのような製品が出てきても基本的にはその会社の製品のみをサポートするというのが主流でした。しかしながら、いくつかのメーカーはサードパーティ製品の取り込みと、複数の機器を連携させたよりユーザに取って自然な使い心地を実現する方向に向かっています。例によってこちらもCESでの展示をいくつかご紹介します。
大手家電メーカーやチップベンダーなど様々な場所でHome IoTの展示はありましたが、Lowe’s Homeといった家電量販店のようなところやmuzzleyといったソフトウェアスタートアップがともに複数の家電などを統合的にかつ直感的にコントロール出来る点をアピールしていた点が興味深い点です。余談ですが、
Intuitive Experience(直感的体験)という言葉はIoTだけでなく、多くのベンダーがここ最近利用している流行り言葉となっているように感じる今日このごろです。

左:Lowe’s Homeの展示・右:muzzeleyのブース

左はLowe’s Homeの展示。右はmuzzeleyのブース、ポルトガルのソフトウェアスタートアップだがGoogleのNestを含む複数製品を一元コントロール出来る点が売り。
HomeIoTの分野は元々あるホームセキュリティや通信事業者のサービスとの組み合わせなどが進みそうです。すでにAT&TはDigital Lifeという家庭内の家電をモニター、コントロールできるサービスを2年前から北米で展開しており、Samsung, Qualcomm, LG, Smartthings、Lutron Electronicsといったメーカーの家電をサポートしています。
また、ヨーロッパではTelefonicaが10月にThinking Things、Orangeが11月にHomeLiveと相次いでIoTサービスをリリースしています。中でもTelefonicaのThinking Thingsは野心的で、接続やセンサー、Actuator、バッテリーといった各モジュールを提供するとともに、それぞれに対するAPIアクセスを可能とすることで多様な活用方法を可能としています。また、直接GSMのネットワークに接続させる形態であるため、屋外での接続はおろか、Telefonicaが設備を保有する地域であれば、他国においてもアクセスすることができます。

TelefonicaのThinking Thingsで公開しているREST API

(TelefonicaのThinking Thingsで公開しているREST API)


コンシューマー市場でもうひとつ盛り上がっているのはConnected Carの分野ですが、米国においてはAT&TとVerizonが凌ぎをけずっている分野でもあります。米国スバルやいくつかの高級車メーカーは4Gでの接続をサポートし始めたりしていますが、コストやカバレッジ、2Gへのフォールバックが可能という観点から3Gも未だ根強い人気とのことです。AT&TはコネクティビティとAPIのオープン化、Verizonはユーザエクスペリエンスをキーワードにアピールしている状況です。なお、EUでは2015年末までには全ての新車は事故などの緊急時に警察や消防への緊急発呼する機能を有する必要があるそうで、これがConnected Carの普及を後押しする要因となっています。

EUが導入を義務付けているeCall機能

(EUが導入を義務付けているeCall機能)

エンタープライズ市場

エンタープライズ市場はIoTとして考えるとコンシューマー市場に比べてセンセーショナルなニュースが少ないのでやや動きが鈍いようにも見えます。ただ、M2Mという言い方をすれば数年前から始まっているという見方もできます。M2Mプロバイダーも既に複数登場しており、たとえばサーモスタットなどのデバイスをカスタマイズすることによってリモートからのコントロールが出来るようにし、複数のリテールストアの温度や湿度管理を計測し、空調の故障などを即座に検知することができるようなサービスも出てきて、導入を増やしています。また、採掘、オイル、ガスのプラントなど危険なため人が立ち入れない、温度などの変化を素早く感じ取らなければならないような分野では急速にIoT化が進んでいます。

MaRSによる市場に関するデータ

(上はMaRSによる市場に関するデータ。OILやガス、採掘の分野で高い伸び率が期待できることが予測されている。)

なお、ダウンタイムが発生することによる損失が大きいこともこれらの業界に共通しており、機械の損傷などに伴うシステムダウンを予見し、ダウンタイムを最小することも大きなモチベーションとなっています。2014年10月にシカゴで開催されたIoT World Forumでも実際に大規模投資が行われているのはこの分野であり、今後も導入が伸びていくことは間違いないだろう、といった論調が見られました。

ただ、この分野は初期投資もリターンも大きく、巨大な機械やプラントにセンサーやワイヤレスモジュールをつけて常時計測や携帯電話網を通して直接データ送信を行うことができるなど、後述する他の分野に比べてやや特殊な領域といえるかもしれません。分析のための手法やプラットフォーム、アーキテクチャのデザインは参考になるものの、ハードウェアやユーザインタフェースなどは他の分野と結構異なることが予想されます。
また、比較的最近盛り上がっている領域の一つが製造分野です。こちらはGEがIndustrial Internetとして定義している分野の中心になりますが、Ciscoも注目しているほか、The Economistは、この分野を最も注目すべき市場として評価しています。

業界ごとの重要度

(複数の機関による業界ごとの重要度を並べたもの。オイルやエネルギーのほか、製造業の期待度が高いことがわかる。 Source: IoT Analytics)

工場においてシステムは、セキュリティやリスク、遅延要件から、長らく「情報系(IT系)」とよりシビアな「オペレーション系(OT系)」とに分かれてきましたが、先にあげた分野と同じく、ダウンタイムが損失に直結することから両方のシステムを接続することに意義を見出しつつあるようです。IT系とOT系の相互接続により、オペレーション系におけるリアルタイムの情報を社内システムに即座に反映し、それによって資産管理などをより素早く行う事ができることや、微妙なステータスの変化をビッグデータで分析することによって、故障を予測し、事前にメンテナンスすることでダウンタイムを短縮することも期待されています。

一方、リテール分野、金融分野における動きはこれに比べるとやや低調に見えます。リテール分野ではオムニチャネルの取り組みと並行して各店舗へのクラウド型WiFi導入とビッグデータの導入が進んでいますが、主にPOSの置き換えや、スマートフォンアプリとの連携というところに主眼が置かれているようです。RFIDの導入により在庫管理をより効率的に行うという少し前に流行りかけた試みも一部で再始動の動きがあるようです。しかしながら、RFIDはもともと万引き防止ゲートとの相性が悪いとされ、かつて大幅に導入したJC PennyでRFID導入に伴って万引き防止タグを外した結果、万引きが多発するというような苦い教訓も広く知られています。その改善策も出始めていますが、やはり導入に関しては全体的には鈍い状況と言えるでしょう。

Macy’sのオムニチャネルへの取り組み

(Macy’sのオムニチャネルへの取り組み Source:Fortune)

また、金融分野の注目はApple Payなどの新しい決済システムやビットコインなどのブロックチェーンテクノロジーの方に集まっており、IoTに関連するソリューションで目立った動きは特に見られていないのが実情です。

パブリック

世界で複数の先進的な都市が力を入れているのが、スマートシティの取り組みと言えるでしょう。バルセロナやモントリオール、シカゴ、サンパウロなど各都市がスマートシティとして名乗りをあげています。そこでの取り組みは多種多様ですが、公園の管理や、公共交通機関のコントロール、信号の操作、監視カメラなど多種多様です。

インテルとサンジョーズのスマートシティの取り組みイメージ

(IntelはSan JoseとSmart Cityに関するパートナーシップを発表 Source:Engaget)

多種多様ではあるものの、まだ大掛かりな投資と仕組みの導入が必要となるため、現状ではまだ先進的な都市が自らの取り組みをアピールするという面が強いと言えるでしょう。そのため各種予測では、スマートシティに関する市場の伸びについてはやや控えめなものとなっています。 それでも日本においては東京オリンピックやカジノの解禁など、利便性やセキュリティなどの観点でまだまだ改善を求められるイベントが出てくることが今後予定されています。これらが契機となってソリューションの導入が進み、徐々に各地方に広がっていくことも十分考えられます。

Smart Meter関連もこれから活用が広がりそうです。カリフォルニアでは州全体でSmart Meterへの取り組みが進んでいて徐々に古いアナログメーターがSmart Meterに置き換わっています。常時利用量が把握されてしまうのはプライバシー上問題であるとのことでこれに反対する運動も起きましたが、シリコンバレー地区におけるPG&Eという会社にアナログメーターの継続利用を依頼すると月10ドル以上高くなる上、様々なメリットも受けられないため大半はSmart Meterに置き換わることが確実視されています。また、既に2年前にはSmart Meterと家庭内機器の連携を促すためのオプションも提供しています。

PG&Eで選べるアナログメーターオプションとgreentech gridの報道

(左はPG&Eで選べるアナログメーターオプション。右はSmart MeterがHome Area Networkと接続できるようになったことを伝えるgreentech gridの報道)

以上の通り、米国から見たIoTについて盛り上がっている市場の状況を中心に語ってみました。次回もし機会があればIoT市場で存在感を出しているプレイヤーについて紹介したいと思います。



 **執筆者プロフィール**

NOP社員でもエンジニアでもないのですが、縁があってこちらのブログに投稿させていただくことになりました。シリコンバレーのパロアルトというところにオフィスを持つNetOne USAという会社に駐在しており、もうすぐ4年目となります。

ネットワンに中途で入社してから14年になりますが、かつては東京でエンジニアをやっていた時もありますので、たまには元エンジニアっぽいところをこちらのブログでもお見せできたらと思います。だんだん米国人化してきたと言われる今日このごろですが、私は元気です。

アメリカの中西部(ユタ州)でIoTを叫ぶ筆者 (写真:アメリカの中西部(ユタ州)でIoTを叫ぶ)

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